「ゴルフ場環境論」セミナー４
香りの効用
よく自然を五感で感じるという。たしかに視覚や聴覚はわかりやすい。緑の景色や光の射し込む空間を見たり、耳に響く鳥の声や風の音は、心をなごませるだろう。また、触覚もすぐに理解できる。手に触れた木々や芝の感触のほか、肌で感じる気温なども心地よさに直結する。
しかし五感の中でも忘れがちなのが嗅覚、つまり香りである。嗅覚は無意識のうちに神経系を刺激して、身体に影響を与えるから意外と重要なのだが、気づきにくい。そこで今回は、香りに注目してみたい。
森林総合研究所で行われた感覚試験によると、爽やか感などを一番感じるのは、柑橘系のシトラールだったという。しかし、自然を感じるのは、木の香り（タイワンヒノキなどのヒノキチオール）が強いという結果が出ている。
この香りを嗅ぐと、血圧や脈拍を落ち着かせ、瞳孔を縮小する効果があったのだ。瞳孔は、ストレスを感じると拡大することが知られており、縮小したのはリラックスしたからだろう。血圧も瞳孔径も、自律神経系の指標として認められている。
また心理的な気分の変化を調べたところ、この香りは「怒り」や「疲労」「緊張」などを減少させる効果も確かめられた。
ほかに茶葉の香りや、コーヒー豆の香りなどでも、同じような効用が見られたそうだ。
面白いのは、木の香りが嫌いだという人でも、血圧は上昇せず、ストレスを生じさせなかったことだ。人によって香りの好き嫌いはあるが、生理的な悪影響はないのだろう。
冬は、ゴルフ場といえども、緑は減り寒さで身体を縮こませやすい。プレーが終わってクラブハウスに帰って来た人々に、かすかな香りを嗅がせると、リラックスしてもらえるのではないだろうか。
クマの出没を防げ！
札幌のゴルフ場にヒグマが出没し、とうとう射殺されたというニュースを目にした。
最近では毎年秋になると、北海道に限らず、またゴルフ場だけでもなく、人里にクマが頻繁に出てくる事象が繰り返されている。多い年では、ツキノワグマだけで５０００頭以上が駆除されている。そうした報道が出ると、非難の声が上がる。これほど駆除したら、クマは絶滅してしまうのではないか？
しかし、クマは日本に唯一の猛獣である。人との接触は可能な限り避けなければならない。ゴルフ場経営側にとっても、気になるはずだ。
なぜクマが人里に出てくるようになったのか。一般的な意見では、山に餌がないからだとされる。冬眠前に腹をすかせて、仕方なしに人里に出てくるのだと。
しかし研究者によると、ドングリが豊作の年でも出没するし、山に餌となる植物は豊富らしい。むしろ人里に行けば、農作物など美味しい食べ物が簡単に手に入ることを覚えてしまったのが理由だという。
より問題なのは、クマの生息数が増えている可能性が高いことだ。
これまでの生息数の推定は、目撃情報が頼りだった。ところが、近年トラップについた毛のＤＮＡ分析を行ったり、無人カメラを仕掛けてクマの行動を調べるなどの手法が取られるようになった。すると、以前の推定の数倍のクマが生息していることがわかってきたのだそうだ。
ともあれゴルフコースへの出没はなんとしても避けたい。
やはりクマの習性をよく知って、近づかないようコース管理することが肝心だ。たとえば訓練した犬を森に放したり、いやがる臭いや音のする罠を仕掛けるなど、いろいろな手が考えられる。
できれば駆除することなしに、クマとの共生を図りたい。
パワースポットの効用？
最近、パワースポットなるものが流行っている。
パワースポットとは何かを説明するのは難しいが、ようするに霊的な力を感じる、“気”の漂う場所だとされている。それに触れると、自らの運命にも影響するという。
そのスポットは、多くが巨岩や巨木、泉や滝、あるいは古い神社などにあるとされる。たとえば明治神宮の清正井がパワースポットだと紹介されたところ、訪れる人が列を成して賑わい、とうとう整理券が配られるほどになった。
ゴルフ場にもパワースポットはあるらしい。コースの一角にある石や巨木から“気”を受けると、奇跡のショットが打てた……などと語られる。もともとゴルフ場内には、岩や樹が多くあるからパワースポットが生まれる条件があるのだろう。
もちろん科学的なものではない。パワースポットの“気”は、誰もが感じるものではないし、またその効果を常に再現できるわけでもない。
なかには意図的にパワースポットを作り上げて宣伝するケースもあると聞く。マスコミ情報に振り回されているのかもしれない。
しかし何か「特別な場所」を想定する発想自体は、悪いものではない。人智の及ばない世界に憧れや畏れを抱く気持ちは、誰にでもある。むしろ、パワースポットを信じることでメンタル面に良好な影響を与えることもあるだろう。
実は自然の中で過ごすことによる心身の健康には、フィトンチッドなど物理的な成分や刺激より、心理的効果が大きいのだ。
だからパワースポットで騒ぐのではなく、その前では静かに心落ち着ける場として推奨すべきだろう。
自然に対する敬虔な気持ちを素直出して、心をプラスに転化するのがパワースポットの本当の効用なのではないか。
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